もど記

はてなダイアリーとはてなハイクの後継

 『尊皇愛国論』という西村論文の題名は示唆に富んでいる。「尊皇愛国」という言葉は、「尊皇攘夷」という幕末のスローガンに手を加えたものであり、「攘夷」という言葉が政治的にも有効でなくなり、外交上も容認されなくなった時代に合わせて言い換えたものだった。しかし、攘夷と愛国という言葉が簡単に置き換えられるということ自体に、この二つの言葉の関係について考えさせられるものがある。日本だけでなく、他の国々においても、自分の国を愛することつまり愛国と、外国人を追い出すことつまり攘夷の間の距離は、危険なくらい近い場合が多いようだ。愛情と憎しみという二つの感情が、実は密接に結びついているのと同様、愛国心というイデオロギーと外国嫌い・外国人嫌いの間にも密接な関係がある。愛国心という微笑み顔が、ときに、また突如として、外国人嫌いの醜いしかめっ面に変貌してしまう。真の愛情の可能性と果てしない憎しみの危険性とを切り離す。慎重な思考と意識的な努力が求められるゆえんであろう。
愛国心を考える (岩波ブックレット) p.9)