もど記

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 七年前に安倍晋三内閣が成立したとき、首相は「戦後レジームからの脱却」をスローガンに掲げた。日常語としてはあまりなじみのない「レジーム」という外国語を用いたことに、私はある底意を感じた。彼はフランス革命前の「アンシャン・レジーム」を連想させるためにあえてこういう表現を採ったのではないか、「戦後レジーム」とは何を指し、その何から「脱却」するつもりなのかを曖昧にしたままに……。再び総理の座に就いた彼は、こんどは「日本を取り戻す」と言いだした。いったいどんな「日本」をどこから「取り戻す」というのか。曖昧さは変わらないながら、底意はあからさまに見えるような気がする。
 一九五二年、対日講和条約が発効して戦後日本がようやく「独立」を果たしたとき、評論家で慶応大学教授の池田潔はあるアンケートに答えてこう述べた。
「占領によって我々が政治その他の面において自主性を失った傾向があることは否めない。『バックボーンを取り戻せ』の声が高いが、無批判な復古がそのまま自主性の確立を意味するものではない*1ことを明記しておく」
 池田は、安倍に現れているような、今日の或る種の傾向を見越していたのではないか。
(「戦後レジーム」の実相を探る 竹内修司 ちくま2013年9月号 No.510 p.10)

*1:強調引用者